化学物質過敏症になってしまうと、わずかな化学物質にも体が反応してしまうので、さまざまな症状を引き起こす恐れがあります。そのため、「新築」や「リフォーム」を検討する際も、慎重にならざるを得ません。
関東圏を中心に自然素材をふんだんに使った家を多数手がけている「深建工房」さんによると、「化学物質過敏症になった方が家を建てる際は、素材選びが重要」とのこと。
この記事では、化学物質過敏症に対して不安をお持ちの方が家づくりを検討する際に、最低限おさえておいて欲しいポイントにつて分かりやすく解説していきます。
この記事は、化学物質過敏症になったご子息の経験をもとに、化学物質を極力使わない住宅づくりを研究されている「深健工房」の深沢社長にお話を伺って作成しています。
深沢さん
家中に潜む様々な化学物質
家の中には、壁紙を貼る際に接着剤が使用されていたり、床下に化学薬品を含むシロアリ駆除剤が使われていたり、至るところで化学物質が使われている可能性があります。
では、化学物質過敏症の可能性が明らかな場合、どのような家に住むのが良いのでしょうか? 当然ですが、症状をこれ以上悪化させないためには、化学物質がなるべく使われていない家に住む必要があります。
いわゆる「自然素材」を使った家づくりが不可欠というわけです。
注意が必要な場所 | 化学物質を含む建材 | 自然素材 |
---|---|---|
構造材 | 合板・集成材 | 無垢材 |
壁紙 | 接着剤、防カビ・ダニ材など | 和紙・布クロス |
左官 | 仕上げ材、シンナーなど | 漆喰(しっくい) |
床下 | 謀議処理剤 | ほう酸 |
フローリング | 仕上げ材、防腐剤など | 無垢材 |
木材に「無垢」が使われる理由
特に「化学物質過敏症」の対策には、天然の木をそのまま切り出した「無垢材」を使うのが効果的だといわれています。 対象的に、「集成材」や「合板」と呼ばれる木材は複数の木を張り合わせて作るので、何らかの化学物質を含んだ接着材が使われているリスクが高いです。
無垢材をふんだんに使って建てられたお家の施工例。(「深建工房」さんより)
同じ自然素材でも「相性」が大切
ただし、無垢材といっても種類は豊富です。 シックハウス症候群のように症状が比較的軽い場合は、無垢材を使うだけで症状を防げる場合があるようですが、化学物質過敏症のように症状が重いと「同じ無垢でもスギは大丈夫だけど他の木は体に合わない」といったように、木の種類によってはむしろ症状が悪くなってしまうケースがあるので注意が必要です。そのため、ご自身と相性が良い木を事前に調べる必要があります。
化学物質過敏症の方のお家を多数手がけている「深建工房」さんでは、アレルギー反応が出ないか、木の種類ごと事前にチェックをしてから使う木を選ぶそうです。
深沢さん
国産材の種類例
針葉樹 | アカマツ・クロマツ、イチョウ、エゾマツ、カヤ、カラマツ、スギ、トドマツ、ネズコ、ヒノキ、ヒバ、モミ、など |
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広葉樹 | イタヤカエデ、オニグルミ、カキ、カツラ、キハダ、キリ、クスノキ、クリ、ケヤキ、サクラ、サワグルミ、シデ類、シラカシ、シラカバ、タブノキ、ブナ、ミズキ、ミズナラ、ミズメ、ヤチダモ、ヤナギ類、など |
膨大な種類からご自身の体質に合った木を探すのは大変かもしれません。しかし、木造住宅が主流の日本では構造部分の大半は木材です。くれぐれも妥協せず慎重に選びましょう。
シックハウス症候群は特定の建材を避けることで症状を抑える場合があるようですが、化学物質過敏症は、建材だけでなく日常的に使う洗剤や薬品でも反応する恐れがあるので、原因を特定するのが難しいと言われています。そのため、家づくりではシックハウス症候群よりも「化学物質過敏症」の方がより慎重になる必要がありそうです。
シックハウス症候群と同じような症状を示しますが、シックハウス症候群では、原因と考えられる環境から離れれば症状が改善するのに対し、化学物質過敏症では、特定の化学物質への接触がなくなっても症状が継続したり、全く異なる化学物質に対しても症状がみられる、といった違いがあります。
無垢材は「節」の有無で値段が変わる
とはいえ、「自然素材は費用面が気になる」という方は多いと思います。確かに「無垢材」は合板などに比べると費用は高くなりがちです。 中でも、「無節」といわれる節のない無垢材は値段がより高い傾向にあります。
節が無い無垢材の表面。
ちなみに、一般的には節のない無垢材の方が美しいとされていますが、節の有無による機能的な差はありません。
また、「漆喰」などの塗り壁は自然素材を使っているだけでなく、「調湿効果」にも期待できるといわれており、大変人気があります。
しかし、通常の壁紙と比べるとやはり費用は高くなるため、費用を抑えるのであれば「布」や「和紙」など、同じように調湿性がある安価な自然素材を視野に入れて検討してみるのも良いでしょう。
化学物質過敏症の方ための家づくりについてのまとめ
「住む環境を変えれば今より症状が良くなるかもしれない」と思って住み替えを検討される方は多いと思います。
もちろん、住み替えをきっかけに症状が良くなったという声もありますが、残念ながら家えらびで失敗してしまう方も少なくありません。 現実的には化学物質過敏症への理解が深い業者さんの方が少ないため、自然素材を売りにしている工務店さんであっても、仕上げ材などに化学物質を含む建材が使用されているケースがあります。
自然素材を取り扱っているだけではなく、正しい知識を持って家づくりをしている工務店さんを探すことが、家探しの最初のハードルになるかもしれません。
記事の作成にあたりご協力をいただいた「深建工房」さんでは、20年以上も前から化学物質を極力排除した住宅づくりを研究されており、これまでには「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」で悩む方たちの家づくりを数多く手掛けていらっしゃいます。
深沢さん
木材加工場で行われた木工イベントの様子。
直接木材を仕入れている提携先で行われた森林伐採の見学会の様子。