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現代の技術は素晴らしいものです。
機器に頼れば、換気も冷暖房も思いのまま操れます。
ですが、機器が人工的に生み出す風は、なぜか心地良く感じません。
そのため、つねに新鮮な空気が自然と流れる、伝統的な日本家屋の良さが見直されてきています。
東京都世田谷区に事務所がある平林繁・環境建築研究所さんは、大小さまざまな建築物を数多く手掛けてきた一級建築士事務所です。
特に住宅においては、自然と家中に空気がめぐる「呼吸する家」をテーマに掲げ、快適な室内環境を実現していらっしゃいます。
今回は、平林繁・環境建築研究所の代表を務める平林さんにインタビューしました。
この記事では、平林さんがどのような想いをもって設計に臨んでいらっしゃるのか、紹介いたします。
建築はクライアントの想いに応える仕事
スタッフ
まずは、平林さんが建築士を目指した理由から教えてください。
平林さん
建築がクライアントあっての仕事だからですね。
学生のころは絵描きになりたくて、デザイン・アートの学校に行こうと思っていました。ですが少しずつ、自分勝手に表現するだけのアートよりも、クライアントの想いをカタチにする建築の方に、強い魅力を感じるようになっていったのです。
それで、東京芸術大学の建築科に入って、建築の意匠を専攻することに決めました。
スタッフ
建築で表現するものは、クライアントの想いなのですね。
大学を卒業してからは、どうなさったのですか?
平林さん
磯崎新(いそざきあらた)とは?
現代の建築業界を代表する建築家の一人です。
1986年にイギリスの王立英国建築家協会の
RIBAゴールドメダルを受賞するなど、数々の賞に輝きました。(なお、1848年から2019年までの約170年間で、RIBAゴールドメダルの日本人受賞者は4人のみ)
また、建築界のノーベル賞とも称される
プリツカー賞の審査員を10年ほど務めたほか、2019年に磯崎氏自身も同賞を受賞しました。
参考
磯崎新Wikipedia
スタッフ
平林さんは、日本を代表する建築家さんの元でお仕事をなさっていたのですね。
平林さん
アトリエには学生のときにアルバイトで入り浸っていたのですが、そのまま就職しました。
アトリエでは住宅の設計をすることはなく、石川県加賀市の
「中谷宇吉郎雪の科学館」、山口県の
「秋吉台国際芸術村」といった公共建築を担当しました。
12~13年くらい、お世話になりましたね。
スタッフ
すると、住宅は独立後に手掛けるようになったのですか?
平林さん
いえ、まだ磯崎先生のアトリエにいたころに、大学の友人から個人的に注文を受けたのが始まりですね。
アトリエの仕事をこなしつつ、プライベートの時間を使って設計しました。広い敷地に建てたので、別荘を思わせる大らかな家になりましたね。
スタッフ
平林さん
さすがに独立した直後は苦労しましたね。転機は、独立して2、3年ほど経った2003年ごろでした。
私が以前にネパールを旅した経験があったことから、同国で植林などの環境保全を手掛けている知人に頼まれて、ネパール国内に女性自立支援センターの施設を建てることになったんです。
スタッフ
訪れたことのある国とはいえ、海外でのお仕事を引き受けたのは、勇気ある行動だと思います。
ネパールでは自立支援が必要なほど、女性一人で生計を立てるのが難しいのですか?
平林さん
はい。なにせ、女性の地位が低すぎるのですよ。
そして、その最大の原因は、女性の識字率が非常に低いことなのです。
スタッフ
字が読めないと、就ける仕事が限られてしまいますからね。
平林さん
そうなんです。なので、ネパールでは女性を対象とした教育を強化するため、支援活動が行われています。ところが、当時はまだ専用の支援施設が無く、それが支援活動を進めるうえで大きな障害になっていました。
そこで、私がボランティアで支援施設の設計を行うことになったのです。インターネットでのやり取りだけでなく、実際に現地にも足を運びながら設計を進めていきました。
スタッフ
そこまでしてネパールに貢献したかったのは、どうしてですか?
平林さん
やはり誰かのためになる仕事をしたかったからですね。大変でしたが、ネパールの方々に貢献できたことは、今でも誇りに思っています。
さらに、2015年に起こったネパール大地震の際は、その施設が避難場所として使われました。周辺住民の方々が50人ほど、しばらく施設に留まって生活していたそうです。
スタッフ
人命にかかわる大災害から現地の人々を守れたことは、建築士としての誇りになりますね。
それにしても、平林さんが設計した建物は、大地震でも壊れないほど丈夫なのですね。
平林さん
現地の技術に合わせた建築方法を採用したので、設計においては難しいところもありましたよ。
ちなみに、支援施設をつくったあとは、小学校・中学校、有機農業を教えるための施設なども手掛けました。
ネパールでつくった施設は、まさにクライアントあっての建築そのものだったので、私にとって大きな経験になりましたね。
伝統的な日本家屋のような「呼吸する家」を目指す
スタッフ
家づくりにおいて、平林さんがイメージしている建物はありますか?
平林さん
京都の町屋に見られるような、伝統的な日本家屋をイメージしています。
正面に設けられた格子は、光を取り込んだり、防犯・目隠しの役割を果たしたりするだけではありません。外と内との境界をあいまいにすることで、建物の印象をとても優しくしてくれるのですよ。
スタッフ
たしかにホームページで平林さんの手掛けた建物を拝見すると、伝統的な日本家屋をイメージしていることが分かりますね。
京都の町屋が魅力的に映るのは、建物から優しさを感じるからなのでしょうか?
平林さん
きっとそうだと思います。
だからこそ、いかにして民家や町屋といった伝統的な日本家屋がもっている良さを現代の住宅に取り入れるのか、私は深く考えているのです。どこか懐かしくて和むような、表情の柔らかい建築をつくりたいですからね。
スタッフ
伝統的な日本家屋は、機能的にも優れているのでしょうか?
平林さん
もちろん機能的にも優れていますよ。
特に風通しについては、本当によく考えてつくられていますね。加えて、土壁・畳などに使われているのも自然素材で、素材自体が湿気を吸ったり吐いたりします。
私は、まさにそのような「呼吸する家」を目指しているのです。
スタッフ
「呼吸する家」ですか。伝統的な日本家屋は、家そのものが生きているみたいなのですね。
ちなみに、「呼吸する家」にすると、具体的にどのようなメリットが生じますか?
平林さん
ムダなエネルギーを消費せずに、快適な室内環境を実現できます。
エアコンに頼ると電気代がかかりますし、エアコンの風自体も心地良いものではありませんからね。
特に、湿気の多い地域だとカビが深刻な問題になりやすいので、「呼吸する家」を建てるメリットはさらに大きくなります。
スタッフ
カビの悩みから解放されたら、お客様は嬉しいでしょうね。
ところで、現代は冷暖房の効きやすい、高気密高断熱の住宅が一般的になっています。
さすがに真冬と真夏の間はエアコンが必要になるケースもあると思うのですが、風通しの良さと高気密高断熱は両立できるものなのでしょうか?
平林さん
両立できますよ。風通しの良さは主に設計により実現し、家自体は高気密高断熱の建物にすれば問題ありません。
伝統的な日本家屋を目指しつつ、気密性・断熱性・耐震性・耐火性といった、現代の住宅の優れた部分はしっかりと取り入れています。
スタッフ
平林さんは、なぜ「呼吸する家」をつくろうと考えたのでしょうか?
平林さん
自然を感じられる家で、お客様に気持ち良く暮らしていただきたいからです。
エアコンに頼らないと新鮮な空気が流れず、化学物質の臭いに覆われた家では、お客様が息苦しさを感じてしまうと思うのです。
スタッフ
化学物質の臭いといえば、数年前にシックハウス症候群が問題になりましたね。
平林さん
シックハウス症候群も、伝統的な日本家屋なら起こりえなかった問題です。
だからこそ、お客様には「呼吸する家」で健康的に暮らしていただきたい。本当は誰もが心の中で望んでいる、本来あるべき暮らしを私は提供したいのです。
家族の記憶の器になる家をつくる
スタッフ
お客様に喜んでいただくために、平林さんが独自に工夫していることはありますか?
平林さん
設計の段階から新築が完成するまでの過程を1冊の本にまとめ、クライアントに差し上げています。
平林さんがお客様にプレゼントしている写真集。
手掛けた建物一棟ごとに作製し、お客様にお渡ししています。
平林さん
この本は、初期のイメージ図から模型がつくられ、建物になっていく様子をまとめた記録写真集です。
中身をご覧いただければ、それぞれの段階を写真で振り返ることができるのですよ。
スタッフ
手掛けた建物すべてについて、1冊ずつ作っていらっしゃるとは驚きました。
かなり時間のかかるサービスなのではないでしょうか?
平林さん
編集作業も含めると、2~3週間ほどかかりますね。
ただ、自分自身にとっても設計を振り返る大切な機会となりますし、何よりお客様に喜んでいただけるのが嬉しいのです。
スタッフ
このクオリティーなら、お客様は必ず欲しがるでしょうね。
本にまとめるアイデアは、平林さんが思いついたのですか?
平林さん
もともとは、一緒に仕事をした工務店さんのアイデアですね。その工務店さんが、施工写真を1冊の本にまとめていたのです。
そこで視点を変えて、私は設計者の立場で本をつくってみようと思いました。ちょうど磯崎先生のアトリエにいたときに、設計の過程を説明する本をつくったことがあったので、その経験を活かしながら自分なりにアレンジしてつくりました。
スタッフ
工務店さんと設計士さんとでは、同じ家を題材にしても本の中身は異なるでしょうからね。面白い取り組みだと思います。
それにしても、平林さんはその後もずっと本をつくっていらっしゃいますが、そこにはどのような想いがあるのでしょうか?
平林さん
「家族の記憶の器になってほしい」という想いですね。この想いは、私の家づくりにおける礎なのです。
でき上がった家には、おそらく何年もの間、住みつづけることになります。なので、ご家族、特にお子さんにとっては、その家こそご自分の育った大切な思い出の場所になるでしょう。
だからこそ、長く過ごす時間をすべてを包み込むような、良い思い出をたくさん詰め込める家を私はつくりたいのです。そして、家とともに、この本も「家族の記憶の器」にしていただけたら嬉しいですね。
スタッフ
これから新築を建てようと考えていらっしゃる方に、一言アドバイスをお願いします。
平林さん
時がもたらす変化を考えて家をつくることをお勧めします。
10年20年と時間が経てば、家族が増えたり減ったりしますし、お年も召されます。すると、建物に求められる機能も変わっていくはずです。
将来的に使い勝手が悪くならないか、デッドスペースにならないかと考えながら家をつくると、いつまでも住みつづけられる家になりますよ。
スタッフ
将来を見据えた家づくりをすることが大切なのですね。
本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。
平林繁・環境建築研究所のインタビューまとめ
住まいは、長い時間をかけ、ご家族みずからつくり上げていくものです。
それだけに、平林さんは「一方的に押し付ける住まいはつくりたくない」とおっしゃいます。
建築は、クライアントあっての仕事。
建築を志してから一貫して守り通してきた信念は、時が経っても揺らぐことはありません。
そのような平林さんだからこそ、「家族の記憶の器」となる住まいがつくれるのです。
懐かしくて和むような、心地良い風が流れる家は、ご家族にとってかけがけのない場所になっていくことでしょう。
見た目も柔らかく機能も優れた、平林さんの「呼吸する家」。
「家族の記憶の器」をつくるなら、平林繁・環境建築研究所さんにご相談ください。
平林繁・環境建築研究所の詳細情報
会社名 |
平林繁・環境建築研究所 |
所在地 |
〒158-0094 東京都世田谷区玉川2-11-4 3F |
代表者名 |
平林繁 |
電話番号 |
03-6874-0253 |
営業時間 |
9:00~18:00 ※日祝休み |
公式HP |
http://www.s-hira.com/ |
対応する工事 |
企画、建築設計、工事監理 |
対応エリア |
全国(宿泊、交通費別途) |
その他 |
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