分譲マンションの取り壊し費用は入居者負担!?工事前の心得も紹介

1990年代、マンション建設ラッシュによって建てられたマンションの多くは、現在老朽化に悩まされています。 老朽化したマンションは、いつかは取り壊して建て替え工事をしなくてはなりません

では、それぞれの部屋に所有者がいる分譲マンションではどのようにして建て替え工事を行うのでしょうか。

「工事費は入居者負担?」「実際の費用はどれくらい?」

本記事では、分譲マンションの建て替え工事に関するお悩みを、入居者さんの視点から解説していきます。

1 せっかく買ったマンション……どうして取り壊すの?

新築から30年、40年が経ち設備や外観が劣化してくると、マンションの管理組合から「建て替え」の声が上がる場合もあります。 とはいえ、中にはローンを組んでようやく買った方もいます。

いきなり取り壊すと言われたら、不満や怒りを感じる入居者さんが現れるのも当然です。まずはマンションを取り壊し、建て替える必要性を一緒に確認しましょう。

寿命によるマンションの老朽化

マンションには、築年数による寿命があります。 正確には、マンションを形成しているコンクリートの耐久寿命です。

平成25年に国土交通省は、コンクリートの寿命を以下のように発表しました。

コンクリートの物理的な寿命 117年
鉄筋コンクリート造住宅の寿命(2011年調査) 68年
鉄筋コンクリート造事務所の寿命(2011年調査) 56年
参考 住宅:マンションに関する統計・データ等国土交通省

2011年時点では、コンクリート造の建物は50~60年程度の寿命であるとされています。 しかし、実際には築30年程度で取り壊されるマンションも多く存在します

30年しか持たない理由としては、時代による法律や建築技術の違いが挙げられます。

建築物は「建築基準法」に基づいて工事されますが、建築基準法は大きな地震があった時などに都度改正されてきました。 改正に伴い工事内容も改められたため、現在の建築物と30年前に建てられた建築物とでは耐久性が段違いなのです。

建築基準法とは?
国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途について最低限の基準を定めた法律です。 日本では、大きな地震や災害が起きるたびに少しずつ改正されています。

地震に耐えられないおそれがある

地震大国日本において、住宅の耐震化は重要視しなくてはなりません。

現在の建築物は「新耐震基準」に基づいて、震度7の揺れでも倒壊しないほど頑丈な設計になっています

しかし1981年以前の建築物には「旧耐震基準」が採用されており、震度5までの地震しか想定されていませんでした。 そのため、1981年より前に建てられたマンションは、震度6以上の地震に耐えられない危険性があるのです。

耐震基準の歴史
1950年 耐震基準制定。震度5程度の揺れでは「倒壊」しない設計が義務付けられる。
1981年 新耐震基準が施行。震度5程度の揺れではほとんど「損傷」せず、震度6~7程度の揺れでは「倒壊」しない設計が義務付けられる。
2000年 木造住宅における耐震性を向上。事前の地盤調査が必須になり、基礎の構造や杭の種類が具体的に定められた。

設備の劣化

マンションの耐久性に問題が無くても、設備の劣化から工事に踏み切る場合もあります。

引用:国土交通省 | マンションの改修・建替え等について

上のグラフは、建築数30年を超える、または建て替え相談のあるマンション管理組合への実態調査結果です。 「現在のマンションの問題点」を題名にアンケート調査したところ、安全性(耐久性)よりも「配管や給水設備が劣化」の方が問題としては多いと判明しました。

そのため、仮に「新耐震基準」で頑丈に設計されていても、内部設備の劣化が激しい場合は立て替え工事を検討する場合があるのです。

2 分譲マンションの建て替え工事の実態は?

マンションが寿命を迎えたり、耐震基準に問題がある場合は、安全性を考慮して建て替えを行う場合が多いと分かりました。 では、実際に建て替え工事を行う場合、入居者さんは何をする必要があるのでしょうか?

費用の話を中心に分譲マンション建て替え工事の実態を見ていきましょう。

工事費用は誰が負担する?

そもそも、工事費用はだれが負担すべきなのでしょうか? 実は、マンションの取り壊し費用はマンションの入居者さんが負担しなければなりません。

賃貸マンションであれば、工事費はオーナーさん負担になりますが、分譲マンションの一室は入居者さんの資産です。 建て替え工事の費用は、マンションの入居者さんそれぞれで負担しなくてはなりません。

建て替え工事の費用は?

マンションの建て替え費用は、一戸につき1,000万円程度です。

マンションの資産価値によっても変動しますが、引っ越し費用や仮住まい費用なども含めると、多い場合で2,000万円ほどになる場合もあります。

とんでもない高額費用ですね。 「こんなに高いのに、本当に他のマンションは工事しているの?」とお考えの方もいらっしゃると思います。

では、実際にどれほどのマンションが建て替えを行っているのでしょうか。

実際にどれくらいのマンションが建て替えている?

マンションの建て替え工事は、全国的に見てもなかなか進んでいないのが現状です。

引用:国土交通省 | マンション建替えの実施状況

上のグラフは、平成16~31年度において建て替えたマンションの数を表しています。 現在(平成30年末時点)、全国に分譲マンションは654.7万戸あるとされています。(国土交通省調べ)

しかし、全国で建て替えを行っているマンションは278戸しか例がなく、全体の0.2%ほどしかないのが現状です。 建て替え工事をしていないのは、全てのマンションに問題が無いからではありません。

問題があっても工事に踏み切れないのには、理由があります。

マンションの建て替え工事はどうやって決定する?

分譲マンションの建て替え工事が進まない原因は、決議システムにあります。

分譲マンションで建て替え工事を行う場合、入居者の8割が工事に賛成しなくてはなりません

(1) 決議の種類とその要件 〇建替え決議〇一括建替え決議(団地全体)※1 区分所有者及びその議決権の各5分の4以上

引用元:マンション再生協会 | 決議の種類とその要件

各家庭が1,000~2,000万円の費用を出さなくてはならないのに、全体の8割が賛成するのは極めて異例です。

もし、あなたの住んでいるマンションで取り壊し、建て替えの議題が上がった時、あなたは賛成か反対のどちらか立場に付かなくてはなりません。 続いては、来るべき日に備えてマンションの建て替え問題について考えてみましょう。

3 分譲マンションを所有するアナタができる行動

今住んでいるマンションで建て替え工事の議題が上がったら、どうすれば良いのでしょうか。

マンションには寿命があり、いつかは取り壊さなくてはなりません。 いつか訪れる日が来る前に、自分にどんな行動ができるのか一緒に考えてみましょう。

マンションの売却

建て替え工事が行われる前に、マンションを売ってしまうのも一つの手です。

引用:日本不動産研究所 | 東京23区のマンション価格と賃料の中期予測/2019 上期

上のグラフは、東京23区におけるマンション価格の推移を表したものです。

マンションの水準価格は現在が最も高く、2020年以降は微減していくと予想されます。 建て替え工事に積極的になれない場合は、売却も検討してみてください。

建て替え工事の賛成・反対

売却をしないのであれば、必ず工事に賛成か反対かの立場に付かなければなりません。

安易に結論を出してしまう前に、それぞれの立場での心得を確認しておきましょう。

賛成する場合の心得

賛成する場合は、以下の事項を念頭に置いておきましょう。

【心得1】マンションの土地や構造的に部屋を増設できる余裕があるか把握すべし

建て替え工事が成功する要素として重要なのは、マンションの土地や構造的に「新たに部屋を作れる余裕があるか」です。

先程もお話ししたように、建て替え工事には莫大な費用が必要です。工事に反対される方のほとんどは、費用面の心配をしています。

しかし、建て替え工事によって新しく部屋を作り新たな入居者が入ることで、建て替えの費用を削減できる場合もあります。逆に、部屋を新しく作れない場合、賛成が8割を超えることは難しいと考えてください。

【心得2】工事中の仮住まい、引っ越し費用が補助されるか確認すべし

同様に、オーナーが仮住まいの手配や引っ越し補助をしてくれるかも重要です。工事の間、少なくとも1年以上は仮住まいをしなくてはなりません。

場合によっては引っ越しをする方もいますが、工事間の賃料を補助・負担してもらえないと、賛成意見を集めるのは難しいです。「部屋を新設し、仮住まいや引っ越し補助をする」か否かが、建て替えを行う上で重要な条件です。

【心得3】「修繕」による妥協点も検討すべし

また、修繕による一時解決も一つの方法です。 設備の劣化に関しては、「修繕積立金」を使用して修繕を行う場合もあります。

修繕積立金とは?
10年先、20年先のマンションメンテナンス、修繕に備えて入居者が管理組合を通して積み立てるお金です。 通常、管理費とは別に月々支払っており、外壁や給排水管、屋根の工事などに充てられます。

「修繕積立金」を毎月積み立てている場合、修繕の際に費用を払う必要はありません。 ただし、修繕積立金のシステムがないマンションだと、結局費用を徴収されることになり、賛成意見が通りにくくなります。 また、修繕はあくまで「引き伸ばし」に過ぎません。 いつかはまた、取り壊しを検討する必要に迫られるので注意してください。

反対する場合の心得

また、反対をする場合は以下の事項も頭に入れておきましょう。

【心得1】高齢者向け返済特例制度の内容を知るべし

高齢者の多くは、マンションの建て替え工事に反対意見を出します。 「もう何年も生きないのに何で工事しなきゃいけないの」「せめて死ぬまで待ってよ」と黒い冗談を交えながら工事に反対するのです。 しかし、金銭的に余裕がない場合は「高齢者向け返済特例制度」の利用を視野に入れておくのも大切です。

高齢者向け返済特例制度とは?
満60歳以上の方が自宅を耐震改修、バリアフリー化工事などをする際に最大1000万円を融資する制度です。 申込人が死亡した時点で、相続人が土地や建物などを処分して一括返済します。
参考 リフォーム融資の債務保証一般財団法人 高齢者住宅財団

高齢者向け返済特例制度を利用することで金銭的負担は軽くなるので、マンションの未来を考えた上で検討してみてください。

【心得2】限界マンションとなり、スラム化した未来を考えるべし

建て替えも修繕も進まないマンションは、いずれ「限界マンション」と化します。

限界マンションとは?
維持管理に限界を迎えたマンションのことです。 寿命を迎えたマンションの他にも、空室が増加して運営困難になったマンションも限界マンションと呼びます。

自分の購入したマンションが限界マンションと化した場合、所有者にはデメリットしか発生しません。 具体的には以下のような点が挙げられます。

  • 価格をいくら下げても売れない
  • 税金だけはかかり続ける
  • 建て替えは完全に不可能になる
  • 住民のモラル低下・治安の悪化

管理維持が難しくなった限界マンションは、当然修繕が行えないので資産価値は日に日に落ちていきます。 時が経つにつれボロボロになっていきますが、どこも修繕しなかった場合、どれだけ売価を下げても売れない物件になってしまいます。

しかし、いくら資産価値がなくなっても税金だけは払わなくてはなりません。 固定資産税や都市計画税、さらにマンションの管理費や使わない修繕積立金を払い、コストだけがかかり続けます

さらに、いざ建て替えをしようとしても、住民は減り十分な費用が捻出できなくなるので、建て替えは完全に不可能になります。

他にも資産価値が下がったことでモラルの低い住民が増えたり、それに伴いマンションのスラム化が進みます。 反対意見を出す前に、これから住み続けるマンションが限界マンションと化す危険性を考慮しておきましょう。

参考 NHKでも大反響。老朽化で買い手がつかぬ「限界マンション」の惨状ライブドアニュース

マンションの取り壊しについてのまとめ

マンションに限らず、建物はいつか必ず取り壊さくてはなりません。 建て替え工事の議題が上がる前に、建て替え時にどうすれば良いのかを考えておく必要があります。

まずは、建て替えた場合と放置した場合のメリット、デメリットを把握して、マンションの今後についてご家族と相談してみてください。

もし、マンションの取り壊し、建て替え工事に関して不明な点、疑問などがあればお気軽に「解体無料見積ガイド」へご連絡ください。お悩みの解決へ尽力させて頂きます。

著者情報

コノイエ編集部

コノイエは、東京都港区に本社を置く株式会社アールアンドエーブレインズが運営するオウンドメディアです。累計80,000人以上が利用する「解体無料見積ガイド」の姉妹サイトとして、住宅関連コンテンツを発信しています。人が生活する基本となる「衣・食・住」の中でも、コノイエでは「住」にフォーカスして独自の情報をお届けします。

監修

中野達也

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事
解体工事施工技士 登録番号:23130106
石綿作業主任者 修了証番号:13820
解体工事業登録技術管理者
公益社団法人 日本建築家協会(JIA)研究会員
一般社団法人東京都建築士事務所協会 世田谷支部会員

静岡県出身。日本全国の業者1,000社超と提携し、約10年間で数多くの現場に関与。自身でも解体工事業登録技術管理者としての8年間の実務経歴を持つ。専門家として、テレビ番組をはじめとする多数メディアに出演。これまでに一般家屋はもちろん、マンション、ビルなど様々な建物の取り壊しに従事し、工事を行いたい施主、工事を行う業者の双方に精通している。

出演メディア
めざまし8(フジテレビ系列)、ひるおび!(TBS系列)、情報ライブ ミヤネ屋(日本テレビ系列)、バイキングmore(フジテレビ系列)、CBCニュース(CBCテレビ系列)他多数

当協会の運営サイト「コノイエ」は、工務店・ハウスビルダー・建築家・建築設計事務所等の500以上のインタビュー記事を掲載。また、新築・建て替えを検討中のユーザーにとって有益となる情報を発信しています。
当協会は、建て替えに伴うお住まいの取り壊しのご相談を年間で2,500件ほど承っており、各地域の住宅関連会社の情報が集まります。今後も「コノイエ」では、新築ユーザー様の発注先や評価、住宅関連会社様への独自インタビューといった当協会ならではの独自のリアルな情報をお届けします。

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