賃貸アパートを経営されている方なら、いつかは直面する「建て替え問題」。建て替え工事には当然費用がかかりますし、入居者とのトラブルも発生しうるので、賃貸アパートの建て替えには消極的なオーナーさんが多いのが現状です。
しかし、木造家屋の寿命はせいぜいもって30年程度です。賃貸物件として機能しなくなる前に建て替えに取り組む必要があります。
では、賃貸アパートを替える絶好のタイミングはいつ頃なのでしょうか?建て替えのメリットや注意点と共に確認していきましょう。
1 賃貸アパートの建て替えはいつ行う?
一般的に、アパートの建て替えを行うべきとされているタイミングをご紹介します。
アパートの耐用年数が過ぎている時
全ての建物には「耐用年数」が設定されています。
耐用年数は、あくまで計算上のものであり、建物の利用状況によって実際の耐用年数は前後します。
定期的にしっかりメンテナンスを行っていれば耐用年数よりも長く持つ場合もありますし、管理がずさんだったり、入居者の利用態度が悪い場合には耐用年数よりも早く建物が劣化する場合もあります。
ちなみに、国税庁では建物の耐用年数を以下のように定めています。
木造住宅 | 22年 |
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れんが、ブロック造住宅 | 38年 |
鉄骨、鉄筋コンクリート造住宅 | 47年 |
木造住宅は耐用年数が20年強と非常に短くなっています。一方、鉄骨や鉄筋造の建物は約50年の耐用年数とされていますが、耐用年数に満たなくても建て替えを行うべきタイミングは存在します。
参考 【確定申告書等作成コーナー】耐用年数(建物/建物附属設備)アパートの維持費用が高額になっている時
耐用年数に満たなくても、アパートの維持費用が高額になっている場合は建て替えを検討する必要があります。
古くなっているアパートは小さな修繕だけでは事足らず、部屋を丸ごと改修するような大型なリフォームが必要になる場合があります。しかし、リフォームを立て続けに行っていると、かえって損をするケースが多いのです。
例えば、50万円で1室のリフォームを行った結果、月の賃料を5000円上げる事に成功したとします。リフォーム料の50万円を完全に回収するには8年と4ヶ月かかる計算になります。
その8年間に、別の部屋や設備の改修等を行う可能性を考えると、古くなっているアパートをリフォームで延命するのはあまり得策とは言えません。
リフォームで得られる利益を計算した上で、建て替えを検討してみましょう。
入居者が増えず空き部屋が多くなっている時
空き部屋率が高くなっている場合も、建て替えのタイミングとしては絶好です。 具体的な目安としては全体の8~9割が空き部屋になっている状態がベストです。
もちろん、建て替えをして建物が新しくなることで、新規の入居者を獲得する狙いもあります。しかし、主な狙いは立ち退きのコストを少なくすることです。
入居者に立ち退きをお願いする場合は立ち退き料を支払う必要があるので、入居者が多いほど費用面のコスト負担は大きくなります。ちなみに、立ち退き料の一般的な相場は家賃の6ヶ月分以上が相場です。
また、入居者全員がすんなりと了承することは珍しく、オーナーと入居者間でのトラブルも想定されます。そのため、建て替え時には入居者が少ない方が手間も費用も抑えられるのです。
2 建て替えを行える「正当な理由」とは?
アパートの建て替えを決めたとしても、オーナー都合で全てを行えるわけではありません。アパートにはそれぞれの部屋に入居者がいるので、建て替えにあたり入居者を立ち退かせる必要があります。
そして、立ち退きを命じるには「建て替えを行う正当な理由」が必要です。続いては、正当な理由を証明するにはどうすればいいのかを見ていきましょう。
立ち退きを命じる正当な理由の基準
賃貸契約期間中に立ち退きを命じるには、契約者が重大な違反を犯すか、「正当な理由」によって契約を終了させる他にはありません。
「正当な理由」の基準は法的に決まっているわけではありませんが、以下のようなケースでは認められる場合が多いです。
- 建物の荒廃が進んでおり、倒壊の危険がある
- 建物の耐久年数を大きく上回っている
- 立ち退き料として十分な金額を支払っている
- 建て替え後に現在の入居者と再度契約する合意が取れている
ちなみに、正当な理由が必要となるのは裁判の時です。立ち退きに対して入居者が裁判を起こした際に、正当な理由があるとオーナーに有利となります。
とは言え、基本的には入居者との話し合いで収めるのが理想なので、上記の条件を守った上で入居者に事情を説明しましょう。
耐震診断証明を行う
正当な理由として効力が高いものに「耐震診断」があります。
ちなみに、建築物を設計する際の「建築基準法」は、1981年と2000年に大きな改正がありました。 1981年以前のアパートだけでなく、2000年以前のアパートも耐震性に問題がある可能性があります。
建築基準法の大きな改正 | |
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1981年 | 新耐震基準が施行。震度5程度の揺れではほとんど「損傷」せず、震度6~7程度の揺れでは「倒壊」しない設計が義務付けられる。 |
2000年 | 木造住宅における耐震性を向上。事前の地盤調査が必須になり、基礎の構造や杭の種類が具体的に定められた。 |
1981年以前の基準では「震度5程度の揺れでは倒壊しない」設計になっており、耐震性に問題があるとして改正が行われました。実際の調査で耐震性に問題があると判断されれば、建て替えを行う正当な理由に十分なり得ます。
立ち退きを拒否されたらどうする?
まれに、入居者に立ち退きを拒否される場合があります。もちろん、話し合いで双方が納得するのが理想ですが、中にはどうしても立ち退きを承諾しない入居者もいます。
その場合、「立ち退き費用を充分に支払い、かつ正当な理由があって建て替えを行う」のであれば弁護士に相談しましょう。
賃貸アパートやマンションでの立ち退きに関して、法令では以下のように定められています。
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
引用元:e-Gov | 借地借家法
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
引用元:e-Gov | 借地借家法
借地借家法においては「解約の6ヶ月前までに通知を行い、立ち退きにおいて正当な理由がある時のみ、契約期間内での立ち退きが認められる」とあります。
つまり、条件をしっかり守っていれば裁判でオーナー側が不利になることは考えにくいので、どうしても話し合いで解決出来ない時は弁護士に依頼をしてみましょう。
3 アパート建て替え工事に関する2つの注意点
それでは、アパートを実際に建て替えるにあたって注意事項をご紹介していきます。注意点は大きく分けて2つです。工事を依頼する前にはご一読ください。
注意点1「入居者への通知」
立ち退きを拒否されたらどうする?でも少し触れましたが、建て替え工事に伴う立ち退き通知は、工事予定の6ヶ月以上前に行う必要があります。
入居者に立ち退きをお願いする際の大前提ですので、くれぐれも遅れないようにしましょう。また、先程ご紹介した「借地借家法」は借り主(入居者)を守る為の法律です。
つまり、オーナー側に少しでも不手際があると裁判では不利になってしまうので、規定はしっかりと守りましょう。
注意点2「騒音」
アパートやマンションのような大型の建物を取り壊す場合、通常の住宅よりも大きな騒音被害が想定されます。騒音被害が大きくなると、近隣住民とのトラブルも発生しやすくなります。
そのため、工事前には近隣の住民にしっかりと工事内容に関する説明し、挨拶回りを行いましょう。
以下の記事では、騒音に関してさらに詳しく解説していますので、合わせて御覧ください。
賃貸アパートを建て替えるタイミングと注意点についてのまとめ
賃貸アパートの建て替え工事を行うには、タイミングが重要です。築年数や建物の状態、空き部屋率などを考慮してから工事に臨みましょう。