「簿価」や「時価」、「取得原価」などなど、不動産の価値を表す表現は複数ありますよね。なぜ、同じ不動産を別の価値で表現するのでしょうか?また、それぞれの価格はどのようにして決まるのでしょうか?
簿価とは帳簿上の価格
不動産の価格で特によく聞くのは、時価と簿価です。時価とは「その時売ったらいくらになるのか」、簿価とは「帳簿上ではいくらなのか」を表しています。
時価は売買されるときに決まる金額です。なお、不動産の販売価格は交渉を通してして決められる場合が多いので、買った時よりも安くなってしまったり、逆に、値上がりしていて高く売れる場合もあります。
- 時価→もし売ったらいくらになるのか
- 簿価→帳簿上ではいくらなのか
一方、簿価は帳簿上で管理されている不動産の価格です。極端な相場変動や天災など、特別な場合を除いて市場に影響されません。
一般的に取得原価は不動産を購入するのに掛かった金額です。それに対して、簿価は毎期ごとに不動産を評価し直した結果です。単純に取得原価=簿価にはならないので注意して下さい。
なんで帳簿上の価格が必要なの?
建物はずっと使っていればガタが来ますし、年数とともに老朽化して行きます。一方で土地はいくら使っても老朽化しません。なので、土地の簿価は取得原価がそのまま記載されますが、建物の簿価は年数とともに安くなっていくのが自然ですよね。そのため、建物の価値を正しく評価するため減価償却が行われます。
例えば、1,000万円の建物を買って20年間使い続けたとします。20年も使い続けると建物は老朽化しているため買った当初と同じ価値にはなりません。
でも、20年経った後に急に建物の価値が下がるわけではありません。そこで、毎年少しずつ建物の価値を減らして正しい評価に直します。使った分だけ価値が下がっていくイメージです。それが、減価償却です。
特に不動産などの資産は会社の規模を過大評価してしまうのに繋がります。減価償却は、投資家や銀行など会社の関係者が正しい判断をするために不可欠です。
ただし「今年は儲かったから多めに建物の減価償却をしよう」とか「来年まとめて減価償却をしよう」などと勝手に減価償却を行うことはできません。
不動産の減価償却方法は最初に計算方法を決め、毎期継続して行います。
減価償却の方法
減価償却の計算方法はいくつかありますが、ここでは代表的な2つの方法を紹介します。
定額法
1つ目に紹介する方法は定額法です。定額法の特徴は毎年一定の金額ずつ均等に価値を下げていく方法です。
例えば3000万円で購入した不動産のビルがあったとします。これを30年かけて均等に減価償却しようとすると毎年いくらずつ減らしていけばいいでしょうか?
毎年100万円ずつ減価償却すれば、ちょうど30年でゼロになりますね。ところが、毎年100万円ずつ減価償却するのは間違いです。
なぜなら、30年たった時、ビルが残っていれば価値はゼロではないからです。どれだけボロボロだったとしても、少なからず何百万円とか何万円とか価値は存在するはずですよね。
なので、減価償却の方法で定額法を使う場合は、最初に残存価格決めて残存価格を差し引いた金額を対応年数で割って毎年の減価償却の金額を決定します。
では、あらためて3,000万円で購入した鉄筋コンクリート造の建物を減価償却する場合どうなるか考えてみましょう。
- 取得原価 3,000万円
- 対応年数 30年
- 残存価格 取得原価の10%
上記の条件だった場合の計算式です。
取得原価 3,000万円 - 300万円(3,000万円の10%) = 2700万円
2,700万円 ÷ 30年 = 90万円
計算の結果1年当たり90万円ずつ継続して減価償却を行います。
定率法
減価償却の方法2つめは定率法です。定率法は毎年同じ定率をかけて計算する方法です。
定率法の特徴は序盤に多く減価償却が行われ、年数が経過するにつれて減価償却額が徐々に減少する点です。例えば、1000万円で買った不動産に0.2の定率をかけて減価償却額を計算したとします。
取得原価 1,000万円 定率 0.2
初年度の計算式は以下のようになります。
2年目は減価償却をした残りの金額にさらに0.2を掛けて減価償却額を計算します。
【2年目】
簿価 800万円(取得原価1,000万円-初年度減価償却額200万円) 定率 0.2
翌年には簿価が800万円になった不動産にさらに同じ定率を掛けます。
2年目の減価償却額は160万円です。続いて3年目も計算してみましょう。
【3年目】
簿価 640万円(取得原価1,000万円-初年度減価償却額200万円-2年目減価償却額160万円) 定率 0.2
3年目の減価償却額は前年度の簿価640万円にさらに0.2の定率を掛けます。
【3年目減価償却額】
簿価 640万円 × 0.2 = 128万円
3年目の減価償却額は128万円ですね。
年数 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
減価償却額 | 200万円 | 160万円 | 128万円 |
表にすると分かりますが、減価償却額は年数と共に減少していますね。
また、既にお気づきかもしれませんが定率法では残存価格を計算する必要がありません。 定率法の場合、常に1以下の定率を掛け続けるので計算結果がゼロ以下にならないからです。
リフォーム費用は修繕費?
建物を所有していると、修繕やリフォームなど大掛かりなメンテナスが必要な場合があります。そうすると、リフォームした際の費用はどのように処理されるのでしょうか。リフォームをすれば建物の価値は上がるはずですよね?
安心して下さい。極端に不動産の価値を上げるような工事は資産として認識されます。なので、リフォーム費用は建物の資産価値に含めてあげる必要があります。ただし、建物の資産価値に含める場合は条件があります。
資産に計上するパターン
リフォーム費用を建物の資産価値に含める場合は掛かった費用の金額と、対応年数がポイントです。
ちなみに、金額は20万円以上、対応年数は3年以上です。もし、3年以内に再び同じようなリフォーム工事が必要な場合は、たとえ20万円を超えていても建物の資産価値に含まれません。
- リフォーム費用の合計が20万円以上
- 対応年数3年以上
不動産のメンテナンスは多岐にわたります。壁紙の張り替えや、細かいところなら蛍光灯の取り換えなど挙げればきりがありません。
なので、あれもこれも全てリフォームだと言って容易に資産価値に含めていたら正しい価値が分からなくなりますよね。そこで、金額の目安として20万円が設定されているのです。
しかし、金額だけでは不十分です。
もし、高額の不動産で一度に100万円の大規模なメンテナンスが毎年必要だった場合はどうですか? 金額は20万円を超えていますが、毎年かかるならそれは資産ではなく修繕費として計上すべきですよね。
なので、フォーム費用が20万円を超えていても、対応年数が3年以上でなければ建物の資産価値に含めることはできません。
修繕費に計上できるパターン
ただし、リフォーム費用が20万円を超えていて、対応年数が3年以上の場合でも修繕費として計上できる場合があります。 それは、リフォーム費用の合計が60万円未満、かつ前年末取得原価の10%未満に納まる場合です。
- 合計が60万円未満
- 費用が前年末の取得原価(簿価)の10%未満
リフォームの費用が資産の評価に含まれるのは、著しく資産価値を上げている場合です。なので、簿価の10%未満のリフォームなら修繕費として計上できる制度もあります。
不動産の簿価についてのまとめ
簿価と時価は違います。簿価は帳簿上で確認できる価格や金額のことです。できるだけ正しく不動産の資産価値を判断できるよう毎年調整して記載されています。時価は売却する時の目安、簿価は不動産の評価額です。