親族や知人との間で土地の売買を計画している方の中には、不動産業者を通さずに個人間で売買を進めたいと考えている方も多いかもしれません。
しかし、土地の売買を円満に進めるには、資料の準備・書類の作成・アフターフォロー等、売主も買主も対応しなければならない作業が多岐に渡ります。
この記事では、不動産業者を介さない個人間での土地売買の流れについて解説しますが、よりスムーズな売買を目指すのであれば仲介業者の利用もあわせて検討してみてください。
土地を個人売買するときの流れ
個人間で土地を売買する際には、買主も売主も、双方が流れを理解した上で不備のないよう手続きを進める必要があります。
順番に解説していきますので、参考にしてみてください。
1.売主は土地の資料・図面を準備する
まずは、土地の売却のために必要となる資料や図面を準備しましょう。
必要となるのは以下の書類です。
- 確定測量図・境界確認書
- 登記簿謄本(登記事項証明書)
- 登記済権利証(登記識別情報)
- 固定資産評価証明書
- 印鑑証明書・住民票
元々手元にある資料もあれば、新しく取得しなければならない図面もあります。直前になって焦らないよう計画的に準備を進めてください。
1.確定測量図・境界確認書
隣り合った土地の所有者の合意を得て、どこからどこまでが誰の土地かという境界線を確定した図面を「確定測量図」、確定した境界を証明する書類を「境界確認書」と言います。
土地の売買にあたって、必ず測量するよう法律上義務付けられているわけではありませんが、トラブル防止のために測量したほうが安心です。しかし、測量には時間もお金もかかるため、買主との間で合意が取れれば、測量せずに売却することも可能です。
- 取得方法
土地家屋調査士に測量を依頼します。
- 必要な費用
60万~80万円程度(100㎡の土地の目安)土地が広かったり土地の形が複雑だったりすると、測量に時間がかかるため費用も高額になります。
- 期間
1ヶ月半~3ヶ月程度、測量だけでなく、隣人の立ち会いや図面の作成等が必要なため期間は長めです。
2.登記簿謄本(登記事項証明書)
土地の所在地や所有者などの登記情報が記載されている文書です。
現在はデータ化が進んでおり「登記簿謄本」ではなく「登記事項証明書」が発行されることがほとんどですが、どちらも役割は同じです。
- 取得方法
「最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターの窓口での交付」、「オンライン請求して郵送での交付」、「オンライン請求して最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターでの交付」の3パターンから選べます。
- 必要な費用
最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターの窓口での交付 | 600円 |
---|---|
オンライン請求して郵送での交付 | 500円 |
オンライン請求して最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターでの交付 | 480円 |
3.登記済権利証(登記識別情報)
土地の購入や相続をした際に、登記を済ませた人に対して交付される権利証のことです。
2004年以降は「登記済権利書」に代わって「登記識別情報」が発行されるようになりましたが、役割は同じです。
- 取得方法
- 手元にない場合
お持ちの土地を購入・相続して登記した段階で交付されています。
再発行はできません。そのため、司法書士に依頼して登記済権利証や登記識別情報に代わる「本人確認情報」という書類を作成してもらう必要があります。
4.固定資産評価証明書
土地の固定資産税を正式に証明するための書類で、登記の情報を売主から買主に移転する所有権移転登記の際に課せられる、登録免許税の算出に必要となります。
- 取得方法
対象の土地がある地域が東京23区の場合は都税事務所、東京23区以外の場合は所在地の市区町村の役所で発行できます。
念のためお住まいの地域で検索して確認してみてください。
5.印鑑証明書・住民票
印鑑証明書は、登記の情報を売主から買主に移転する所有権移転登記の際に必要です。住民票は、登記上の住所と現住所が異なる場合に必要です。
- 取得方法
- 注意事項
お住まいの地域の市役所・区役所で発行するほか、マイナンバーカードがあればコンビニでも受け取り可能な地域が増えています。
印鑑証明書は作成後3ヶ月以内ものを使用するよう定められています。
住民票は有効期限はありませんが、あまりにも古いものだと使えない可能性があるため、念のため3ヶ月以内のものを使用したほうが安心です。
2.売主と買主の間で金額のすり合わせをする
資料や図面の用意ができたら、次に売主と買主の間で土地の売却価格のすり合わせをしましょう。
もし相場を参考にしたい場合は、国土交通省の「土地総合情報システム」で不動産の取引価格の確認ができます。
3.売買契約を締結する
土地の売却価格が決まり、売主と買主の間で合意が取れたら、売買契約締結のために「重要事項説明書」と「売買契約書」を作成します。
重要事項説明書とは
重要事項説明書とは、登記に記載された内容や道路の種類など、対象の土地に関して契約前に知っておくべき重要な情報を記載したものです。
個人売買の場合は法律上必ずしも必要な書類ではありませんが、買主が住宅ローンを利用する場合は金融機関から提出を求められることが多いため、作成はほぼ必須です。
なお、「重要事項説明書の作成」「重要事項の説明」ができるのは宅地建物取引士の有資格者だけです。そのため個人売買の場合は、自分で有資格者を探して依頼しなくてはなりません。
売買契約書とは
売買契約書は、取引内容や契約条件を明文化した文書です。
重要事項説明書と同じく、売買契約書も個人間の売買では法律上必ずしも必要なものではありません。しかし、土地の売買には大きなお金が動きます。そのため、売主・買主の双方が不利益を被ることなく取引を終えられるように、売買契約書は取り交わしたほうが安心です。
売買契約書に記載する内容は以下の通りです。
- 売買物件の表示
売買する土地の所在地や面積などの詳細情報を記載します。
- 売買代金や手付金・保証金の金額
売主・買主の双方が納得して決めた土地の価格を記載します。また、買主が代金を払うまでの担保として手付金や保証金を設定した場合には、その金額についても記載します。
- 売買物件の引き渡し条件
土地をいつ引き渡すか、もし引き渡せなかった場合どうするのかを取り決めます。
- 危険時の負担内容
災害などによって土地の引き渡しができなくなった場合の対応についての取り決めます。
- 瑕疵(かし)の修復について
引き渡し後に、地盤が弱かったり土壌汚染があったりなど、瑕疵(欠陥)が発覚した場合に、いつまで売主が修復の責任を追うかを記載します。
- 税金の支払いに関する内容
発生する税金を売主と買主のどちらが負担するかの取り決めです。
- 契約違反による解除
契約違反があった場合に、契約を解除するか、違約金などのペナルティを課すかの取り決めを記載します。
売主と買主どちらか一方が不利にならないように定める必要があります。 - 特約について
上記以外に追加したい項目や、書き切れなかった内容がある場合に記載します。
4.買主は決済日までに代金を準備する
決済は、売買契約を結んでから、2週間~2カ月後に行うことが多いです。
決済日には実際に融資をスタートさせる必要があります。そのため、住宅ローンを利用したいと考えている方は、売買契約を無事に取り交わしたら早めにローンの申込みをしておきましょう。
5.買主の決済・売主からの土地の引き渡し
決済日になったら、金融機関の個室など買主の指定した場所でローンを実行します。なお、一般的に決済日と引き渡し日は同日であることが多いため、売主は土地を引き渡せるように準備しておきましょう。
6.売主と買主の共同で所有権移転登記をする
決済後は、売主と買主が法務局へ出向き、共同で所有権移転登記の申請手続きを行います。所有権移転登記とは、売主から買主に土地の所有者を移行することです。
通常は不動産業者経由で司法書士が手続きしてくれますが、個人売買の場合は自分で申請する必要があります。この手続きを怠ると土地の所有権を失ってしまう可能性もあるため、できるだけ決済日当日に行いましょう。
- 登記済権利証(登記識別情報)
- 発行から3ヶ月以内の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 売買契約書
- 実印
- 住民票(※登記上の住所と現住所が異なる場合のみ)
- 住民票
発生する税金について
土地の売買に際して必要となる税金についても解説します。
印紙税
売買契約書には、法律に従った収入印紙を貼って「印紙税」を納めなくてはなりません。印紙税は売主・買主の双方の納税が必要です。
納税金額は土地の売買価格によって異なります。詳しくはこちらのサイトで確認してみてください。
参考印紙税|2020年(令和2年)度税金の手引き三井不動産リアルティ株式会社登録免許税
- 売主から買主へ土地の名義変更をするための登記を、所有権移転登記と言います。
- 所有権移転登記の手続きの際に課せられるのが「登録免許税」で、印紙税と同じく収入印紙を貼り付けて納税します。
登録免許税は、自治体の定めている「固定資産税評価額」✕2%で求められます。例えば、固定資産税評価額が1,000万円の場合は1,000万✕2%で20万円となります。
なお、固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書で確認できます。
譲渡所得に対する税金
土地を売却したことで儲けが出た場合は、儲け(=譲渡所得)に対して所得税と住民税が課税されます。所得税は、土地を売却した翌年の3月15日までに確定申告で支払い、住民税の支払いは6月以降になります。思わぬ出費に驚かないように準備しておきましょう。
土地を個人売買するときの注意点
土地を個人間で売買する際の流れについてご説明しました。次に、土地を個人売買する際の注意点や、起こり得るトラブルについて解説します。
価格交渉に自分で対応しなければならない
個人売買の場合は、価格交渉も自分で対応しなけれがなりません。買主との間で一度金額が合意したのに、あとから値下げを要求されることもあります。
そのため、話し合った内容は口頭だけでなく書面で合意するようにしましょう。また、売却予定の土地は測量した上で相場を調べておくなど、土地に関する知識を持っておくことも重要です。
契約書に不備があるとトラブルにつながる
売買契約書に記載しなければならない項目は多岐に渡ります。個人で作成するのは非常に難しいですが、もし書類に不備があれば大きなトラブルにつながります。
例えば「引き渡し後に地盤沈下や土壌汚染などの瑕疵(欠陥)が見つかった場合、売主はいつまで責任を追わなければならないのか」等、きちんと取り決めをしておかなければ、買主と売主の間で紛争に発展してしまう可能性があります。
住宅ローンに影響が出る場合がある
個人売買は住宅ローンが通りづらくなっています。
住宅ローンの審査には「重要事項説明書」と「売買契約書」の提出を求められることが多いですが、個人で作成した書類だと審査に通らないことがあります。
また、不動産業者を介した売買に比べて、個人間の売買はトラブルが発生しやすいため、ローンの返済が滞ってしまう可能性を危惧して審査が通りづらくなっている金融機関もあります。
円満な売買を目指すなら仲介業者も検討しよう
個人間の土地売買には多くのトラブルが発生する可能性があります。
そのため円満な土地売買を目指すのであれば、仲介手数料は発生してしまいますが、不動産仲介業者への依頼を検討してみてください。法律の知識と不動産の知識を併せ持っているため、安心して売買を進められます。
土地の個人売買の流れと注意点についてのまとめ
土地を個人間で売買する際の流れや、注意点についてご紹介しました。
土地の売買には、法律的な知識も不動産の知識も必要になります。そのため、円満に売買を進めたいと考えている方は、不動産仲介業者に依頼したほうがいいでしょう。
不動産仲介業者の中には、買主や売却金額が決まっているなど、相手方との話がまとまっているのであれば、その分の仲介手数料を割り引いてくれるところもあるため、まずはいくつか不動産業者に相談してみてください。